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東京地方裁判所 平成11年(ワ)24434号 判決

原告

被告

株式会社セブンーイレブン・ジャパン

右代表者代表取締役

被告

フジフーズ株式会社

右代表者代表取締役

右両名訴訟代理人弁護士

西村文明

保田眞紀子

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して、金九五万円及びこれに対する平成一一年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、「おかずを挟んだごはん」に係る実用新案権を有し、このような商品のアイデアを商品化しようとしている原告が、被告らによる「サンドおむすび牛焼肉」(以下「本件商品」という。)の製造販売が、原告の実用新案権を侵害するとともに、不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号及び三号)に当たると主張して、損害賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。

考案の名称 おかずを挟んだごはん

出願日 平成六年九月七日

登録日 平成一一年六月一六日

登録番号 第三〇六〇九四一号

実用新案登録請求の範囲

「上下のごはん1、ごはん2により、おかず3を挟みのり4で覆いのりで覆われた背面の反対側の正面から見ておかずを横の直線上にはっきりと見えるようにした食べ物」

2  被告フジフーズ株式会社(以下「被告フジフーズ」という。)は、本件商品を製造して、被告セブンーイレブン・ジャパン(以下「被告セブンイレブン」という。)に納入し、被告セブンイレブンは本件商品を全国的に販売している。

二  争点

1  不正競争防止法に基づく請求について

(一) 本件商品の製造販売が不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号、三号)に当たるかどうか

(原告の主張)

原告は、平成七年九月ころ、被告セブンイレブンを含むコンビニエンスストアのフランチャイズ本部商品企画担当者宛に、本件考案と同じ内容の「ごはんとおかずの加工品」の商品アイデア(以下「原告商品アイデア」という。)を記載し、その商品化について検討を促す書面を送付した。

右書面の送付先は多数にわたり、原告商品アイデアは原告の商品等表示として周知のものとなった。

被告らは、平成八年四月から、右書面に記載されたものと同様の本件商品(別紙物件目録一のとおり特定されるもの)を製造販売しており、このことは既に周知となっている原告の商品等表示と同一又は類似の商品表示を使用するとともに、原告の商品形態を模倣するものであるから、不正競争防止法二条一項一号及び三号の不正競争行為に当たる。

(被告らの主張)

原告商品アイデアの商品としての販売実績は皆無である上、ありふれた商品であるから、これが商品等表示とはいえないこと及び商品等表示としての周知性を獲得していないことは明らかであり、模倣の対象となる「他人の商品」ともいえない。

また、本件商品は、原告商品アイデアを模倣したものではない。

(二) 被告らに先使用権が成立するかどうか

(被告らの主張)

被告フジフーズは昭和六一年四月からサンドイッチ状おにぎりを製造販売し、被告らは本件商品を平成八年一〇月二一日から製造販売しているので、被告らには不正競争防止法一一条一項三号の先使用権が成立している。

(原告の主張)

被告フジフーズが製造販売していたサンドイッチ状おにぎりが、本件商品と同一であるかどうか不明である上、被告らによる本件商品の製造販売は、原告商品アイデアが商品等表示として周知となった後に始められたから、被告らに先使用権が成立することはない。

2  実用新案権侵害を理由とする請求について

(一) 本件商品が本件考案の技術的範囲に属するかどうか等

(原告の主張)

本件商品(別紙物件目録二のとおり特定されるもの)は、本件実用新案に係る実用新案登録請求の範囲記載の構成をすべて備えており、本件考案の技術的範囲に属する。

(被告らの主張)

原告は、被告らに対し、本件実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告していないから、本件実用新案権侵害を理由として損害賠償請求をすることはできない。

(二) 本件実用新案登録は無効かどうか

(被告らの主張)

本件考案の構成は、すべて公知公用であるから、本件実用新案登録は無効であり、そのような実用新案権に基づいて権利行使することはできない。

(原告の主張)

本件考案は、公知公用ではない。

(三) 被告らに先使用権が成立するかどうか

(被告らの主張)

被告フジフーズは昭和六一年四月からサンドイッチ状おにぎりを製造販売し、被告らは本件商品を平成八年一〇月二一日から製造販売しているので、被告らには、先使用権が成立している。

(原告の主張)

被告フジフーズが製造販売していたサンドイッチ状おにぎりが、本件商品と同一であるかどうか不明である上、被告らによる本件商品の製造販売は、本件実用新案出願後に始められたから、被告らに先使用権が成立することはない。

3  原告の損害

(原告の主張)

被告らによる本件商品の製造販売によって、原告が通常受けるべき金銭の額は、被告らの売上げの三パーセントであり、原告は右と同額の損害を被ったところ、その額は九五万円を下らない。

(被告らの主張)

原告の主張を争う。

第三争点に対する判断

一  不正競争防止法に基づく請求について

1  証拠(甲四、五、甲六の一、二、甲一六の一、二)及び弁論の全趣旨によると、原告は、平成七年九月ころから、コンビニエンスストアのフランチャイズ本部の商品企画担当者らに宛てて、原告商品アイデアを記載し、その商品化について検討を促す書面を送付したこと、しかし、原告商品アイデアが原告の商品として原告の資金労力を投下して商品化されて製造販売されたことはないこと、以上の事実が認められる。

2  右1の事実によると、原告商品アイデアは、原告の商品として商品化されて製造販売されたことはないのであるから、右アイデアが不正競争防止法二条一項一号にいう原告の「商品等表示」に当たることはない。また、原告商品アイデアは、原告が資金労力を投下して商品化されて製造販売されたことはないのであるから、右アイデアが不正競争防止法二条一項三号にいう原告の「商品」に当たることもない。

したがって、被告らによる本件商品の製造販売が、原告に対する関係で不正競争防止法二条一項一号及び三号の不正競争行為となる余地はない。

3  よって、原告の不正競争防止法に基づく請求は、いずれも理由がない。

二  本件実用新案権侵害を理由とする請求について

1  弁論の全趣旨によると、原告が、被告らに対して、本件実用新案に係る実用新案技術評価書を提示して警告を行ったことはないものと認められるから、原告は、被告らに対して、本件実用新案権侵害を理由とする損害賠償請求を行うことはできない。

なお、原告は、訴状において、必要に応じて右評価書を特許庁に請求する旨述べていたが、原告は、本件口頭弁論終結期日において、右評価書を提出するつもりはない旨述べている。

2  したがって、原告の本件実用新案権侵害を理由とする請求は、理由がない。

三  以上のとおりであるから、原告の請求をいずれも棄却することとする。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 杜下弘記)

裁判官 榎戸道也は、転補のため署名押印することができない。

〈以下省略〉

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